生きる力を養うピラミッドメソッド⑤ 「一人ひとりの発達を最適にすることが目標」

各々が主体的に遊び=学びに関わるために、手助けが必要な場合があります。「一人ひとりの育ち」にきちんと対応できるのは、保育者の意識と丁寧な準備・仕掛け、そして個々の育ちに最適な手助けが行われているからです。

幼児の特徴を活かす
 園全体が同じ時期に、「テーマ」という極めて具体的な〝もの・事柄〞を使って遊びを展開していける保育の準備をする……そして子どもは、世界を広げそして深めていくこと、これがプロジェクトの目的であることは、前回書かせていただきました。
 でも、相手は幼児です。ひたすら五感を信じて、具体的に身体を動かし、ものや事柄に直接働きかけることで、物事を理解するのが幼児の特徴ですから、これを十分に活かすことが肝心です。間違っても「教え込み型の授業」にならないように注意が必要です。
 では、見慣れないおもちゃを目の前にして、どの子どもも全員がすぐにワクワクして遊びこむでしょうか?
 保育者が用意しておいた遊びの仕掛けに、全ての子どもが興味を持つでしょうか?
 そんなことはありません。
一人ひとり興味も経験も違うのは当たり前ですし、反応や集中の仕方、また積極性やその日の気分など、一人として同じ子どもはいません。ピラミッドメソッドの理論では、「一人ひとり違う」ことにきちんと対応できることを、大事にしています。そのためにこんな四段階で、テーマを遊んでいくように構造化されています。

水って水道だけじゃない、外にもあるよ…世界を広げる子どもたち。
先生が用意したコーナーで、身体と五感を使って遊ぶ子どもたち。


①安心と好奇心に満ちた導入=方向づけ
 テーマを始めるときに配慮すること、それは「子どもの知っていること・できることから始める」です。ワクワクするね、それ知ってるよ、楽しそう、そう子どもが感じられることから始めましょう。どんなテーマが遊びになっていくのか、のプロローグです。
 特に、四歳児は三歳の時にやった遊び、五歳児は四歳の時にやった遊びをこの方向づけというプロジェクトの入り口に持ってくると「できるよ、おもしろかったよ」から始められますね。


②実際に見て、まねて、同じように遊んで体験する
 さて、次に来る段階は、見てまねて体験をする、です。まねることは決して消極的なことではありません。まねたいことを自分の身体で同じように体験することによって、初めて自分自身の感覚を通して「具体的にわかる」のです。これは特に幼児期の子どもには非常に大切なことです。身体と五感が頼りの子どもには、見ただけ、聞いただけではわかったことにはなりません。手足・指先を使い、五感を十分に使って遊ぶからこそ、「体験」としてしみ込んでいくのです。


③テーマの世界を 広げてみよう
 同じように遊んでいると「こうしたらどうなるかな?」「この先には何があるのかな?」と、十分に遊びこんだからこそ思いつく、疑問やチャレンジが生まれます。これこそ、子どもが今知っていることに関連付けて世界を広げていくチャンスです。保育者は、知りたいことややってみたいことに子どもが出会えるよう、絵本や保育素材を準備して、遊びが広がる仕掛けをします。そして一緒に驚いたり不思議がったりしながら、遊びを広げて楽しんでいきます。


④テーマにつながる理解を 深めよう
 テーマを通じて世界を広げた子どもは、遊びこみ、展開を楽しみ、知らなかったことに自然と出会ってそれを知り、またそれで遊びこんでは理解を広げ、だんだんとそれらをつなげていく中で、共通点や相違点を見つけて「物事の理解を深めて」います。
 おとなが確認する方法は「目の前にはなくイメージしないと答えにくい質問」をしてみることです。子どもは体験したこと・感じたことを思い出し、つなげていってイメージし、見えない世界にも経験したことを置き換えて表現しようとします。これが「理解を深める」ということです。
 この四つの段階を二〜四週間(テーマによって長さは変化してかまいません)、そして三年間かけて展開します。「一人ひとり違う」ことにきちんと対応できるのは、長い日にちをかけてそれぞれのペースに配慮しながら、保育者の手によって準備・仕掛け・観察・展開が丁寧に行われるからなのです。


先生と一緒だとなんだか楽しい!
その経験が自信と安心を与えます。




チュータリング
 そしてもうひとつ、忘れてはいけないのがチュータリングです。クラスの中には、全体への丁寧な配慮だけでは足りない子どもがいます。その子どもには「チューター」という役割の先生がいて、これからクラスで展開されるであろう遊びに安心して関われるよう、個別に一対一で遊びます。特徴的なのは、クラスでその遊びが始まる前日または二、三日前にすることです。これは「予習チュータリング」といい、子どもの自信・安心をうまく使って少しでも主体的に遊びに関われることを重視しているからです。この配慮こそが、ピラミッドメソッドの「一人ひとりの発達を最適にする」をよく表していると思います。


掲載:福音社『サインズ オブ タイムス』2012年11月号 筆者:宍戸信子