生きる力を養うピラミッドメソッド⑥【最終回】 「ピラミッドメソッドの日本での『今』とこれから」
豊かな理論と実践に裏打ちされたメソッドは、今の保育のあり方を整理し、保育の質を高めるために
役立っています。日本での可能性を見つめます。
「保育をデザインする」という意識
思いやり/自信・自己肯定感/自主性・主体性/笑顔/健康/社会性/生きる意欲/自分らしさ……。これらは「目の前の子どもにどんなおとなになってほしいです
か?」と尋ねた時のキーワードです。子どもは一日一日時を重ねて、そして必ずおとなになる。子ども時代は確実におとなに繋がっている。だからこそ、今のこの子ども時代
の遊び=学びを豊かにして未来につなげていきたい。ピラミッドメソッドに出会う方々は、改めてそう思われるようです。
では「豊かな子ども時代のために具体的に何をなさっていますか?」と尋ねてみると、「情緒的・抽象的な言葉は出てくるけど、具体的な保育内容や行為そのもので表現するのは難しい……」と、言葉に詰まってしまうこともしばしばです。
私にもこの戸惑いや難しさはよくわかります。「理論=分析・整理」と「実践=具体的な方法」をつなぎ合わせて「保育をデザインする」という意識は明確ではありませんでしたから。
しかし今、ピラミッドメソッドの講座や園内研修で多くの方々と共に学んでいると、*印のような生の声を少なからず聞くことができます。
発達を学び直す大切さ
* 「子どもの育つ力を信じるとともに、主体的に働きかける自信がついた」
* 「子どもの『今まで』と『今』と『これから』の育ちのつながりが具体的にわかった」
使い慣れた「発達」という概念が、理論を学ぶことで整理し直すことができるようです。「発達の短期・長期サイクル」と「八つの発達領域」で捉え、今までの子どもの発
達をきちんと評価し、今後の育ちを見据えて、「今の子ども」に必要なことを明確にして実行する=保育者が主体的に子どもの発達に関わる。これは子どもにも保育者にも望ましい教育の姿です。
実践できる仕組みづくりの大切さ
* 「具体的な教育の方法と育ちとの繋がりがわかった」
* 「子どものことをわかるための方法が見えてきた」
いくら理論が理解できても、相手は「具体的に活動する・感覚と身体を使って遊び学ぶ」という特性を持った幼児。ですから、実践方法の例が豊富にあり、「まずやってみよう」と一歩を踏みだせる、この実行できる仕組みが大事なのです。やってみて実践と理論が繋がったら、徐々に個性や文化・興味に合わせてどの子もかけがえの無い子どもたち内容を変化させることはいくらでもできます。
教育の意味を確認し合う大切さ
* 「今までやってきた保育=実践が、理論で意味づけできた」
* 「理論と実践がきちんと整理してあるので、他の人と共通理解しやすい」
教育・保育は一人でするものではありません。保育者・保護者や地域の方など、子どもに関わるおとなが共通の思いを明確に持つことは大事なことです。ピラミッドメソッ
ドは理論と実践に一体性を持たせているので、誰にでも、それがどのような関係性にあるか、困ったらどこに立ち返ったらいいのか明確にできます。
おとなが変わると子どもも変わる
* 「安定して、十分遊びを満喫しているので、遊びに広がりがでてきた」
* 「困ったときにも、自分でできることと手伝ってほしいことの区別がついてきた」
* 「子どもの自主性が育ち、一人ひとりが自信をもって活動している」
* 「少し気が散っても、何をしていたかが明確で、ちゃんと元の遊びに戻る」
これらは、子ども自身が自己選択・自己決断し主体的に遊びこみ、困難も自分で解決しようとする頼もしい姿です。
未来のおとなである子どもたちのために
ピラミッドメソッドでは、保育・教育の現場ですべきことをこう整理しています。
⑴ 育ちの土台である【秩序とルール・愛着の絆・心地よい空間】を作ること。
⑵ その土台に【多様な価値・多様な関係性】を学べるように種まき=保育の準備をすること。
⑶ そして、子どもが【自己選択・自己決断のチャンス】【主体的に活動するチャンス】【自立するチャンス】【自律に気づくチャンス】を得られるようさまざまな方法を用いて教育すること。
人・モノ・空間・時間……子どもを取り巻くすべてのものが子どもを育てていると教えています。そしてそれを準備するのは、紛れもなく私たちおとなの仕事なのです。
オランダで受けたカルク博士の講座は、イキイキと遊ぶ子どもたちの姿の映像で締めくくられました。それはベートーベンの第九「歓喜の歌」に包まれていました。あなたの意思と決断を尊重したい……そして、どんな課題が起ころうとも共に生きていきましょう……子どもにそして私たちにそんなカルク博士のメッセージがこめられていたことを、今実感しています。豊かな子ども時代は豊かな人生の根っこです。みなさんと共にこれからも育てていけることを願ってやみません。
掲載:福音社『サインズ オブ タイムス』2012年12月号 筆者:宍戸信子